チュニジアの「ジャスミン革命」に端を発した中東の民主化要求のうねりはエジプトでムバラク独裁体制を瓦解させた。イェーメン、リビア、ヨルダンの指導者を震え上がらせ、遠くカザフスタンでも大統領選挙を前倒しにすると独裁者=ナゼルバエフが表明せざるをえなくなり、サウジアラビア、トルコとて気が気ではない。
チュニジアの独裁者は海外へ亡命し、その後のチュニスで展開された出来事は1979年のイランに類似する。イスラム原理主義過激派の暗躍である。
軍と警察の幹部を拘束して旧レジームの残滓を一斉すれば、穏健な民主化をひっこめて、いきなり原理主義過激思想にとりつかれた宗教の独裁政治がはじまりかねない。せっかくの近代化から中世へ逆戻りするのだ。
ムバラクの退場という政変にイスラエルと米国は青ざめ、影響力増大にほくそ笑むのはイランだけである。レバノンのヒズボラ、ガザ地区のハマスはイランが背後で支援する過激派、これらがイスラエルを挟み、さらに米軍があれほどの犠牲を払って「民主化」なる形態をかろうじて実現したイラクも、いつのまにかシーア派が政権の座に着いている。
中東が全面戦争に陥るのを避けるため米国はイスラム穏健派がエジプトに継続されることを望み、サウジもヨルダンもトルコも平和路線の軌を一にしている。イスラエルは次のエジプト政権がもし原理主義者の手に落ちれば、平和条約の破棄にでることを怖れる。
さて、これら中東から中央アジアのイスラム圏の騒擾に隠れて報道されていないが、深刻な現実はパキスタンの核である。アフガニスタンへの兵站確保のため米国が方針を転換し、パキスタンはある日突然、米国の軍事同盟国待遇となって秘密裏に開発した核兵器は黙認された。インドも核兵器を保有するが、米国は制裁どころか新技術をインドに提供し共同軍事演習を展開する始末だ。
つまり核拡散防止条約体制は事実上、終焉している。しかもパキスタンの核兵器は北朝鮮や中国の増加比率より迅速であり、2011年2月現在110発、二年後には200発を保有すると軍事専門筋が推定している。
ここにイスラム圏での政変が重なると、次に備えるべきシナリオは従来の発想では対応不能となる。すなわち核拡散がイスラム圏に急速に拡がるのである。
現にパキスタンの核開発資金はサウジアラビアが負担した。もしイランが核を保有すると(それは時間の問題だが)、サウジアラビアはパキスタンに「開発させ貯藏してきた」核兵器の半分を引き取ると言い出すだろう。
中国は米国東海岸へ届くICBMのほか、潜水艦発射SLBMにくわえて米空母破壊用の高速巡航ミサイルも多数装備した。やがて空母も二隻建造する。となれば米国は中国と軍事的直接対決を避けるだろうから、台湾海峡の安定はいずれ大きく損なわれるだろう。
核不拡散条約体制の終焉、米軍の大規模な撤退が政治日程に浮かんできた以上、日本の安全保障論議も基底のところから塗り替える必要がある。
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